平成22年 地域伝統文化総合活性化事業
横浜の近代建築資産の保全・活用によるまちの魅力づくり 記録集(平成23年3月)
 
市民向け普及啓発セミナー 絹が育てた横浜の近代建築
(2)「生糸がつくった建物、生糸を守った建物」
 
(2)「生糸がつくった建物、生糸を守った建物」
 
日時
会場
 
講 師
参加者
  2010年11月27日(土) 10:30〜13:00
(講演)B横浜市開港記念会館1号室(中区本町1-6)
(見学)シルク博物館(学芸員による解説)
【講演】吉田 鋼市 氏(横浜国立大学大学院教授 ・当会理事)
51名
■概要
□事業の概要
 
□ご挨拶(横浜歴史資産調査会常務理事 米山 淳一)
 
・セミナーにご参加いただきありがとうございます。横浜は生糸で発展したまちです。ご存知の通り、群馬県、長野県など日本各地に養蚕で栄えたまちがあります。横浜から「絹」をキーワードに、養蚕で栄えたまちと、地域連携、まちづくりが出来たらと思っています。
□講演要旨
1.生糸が支えた日本の近代
 
・戦前までの輸出の主力は常に生糸で、生糸を輸出することにより外貨を稼いでいた。横浜港の輸出品の8割を占めたこともあり、戦前を通じて輸出の半分近くが生糸。生糸に次ぐのが、当初は茶。明治半ば以降は絹織物。
・生糸の輸出は横浜が中心(神戸は綿花輸入・綿糸輸出が主力
)。各地の生糸が横浜に集まる(「絹の道」)。養蚕農家は製糸業も行うようになる。横浜の貿易が各地の養蚕農家を支え、中部地方を中心とした大小の製糸業を支えた。
2.シルクセンターの建築
 
・1959年竣工。設計は坂倉準三建築研究所、施工は鹿島建設。坂倉準三(1904-1968)は県立近代美術館(1951)、県庁新庁舎(1966)などの設計者で、神奈川のモダニズムの公共建築の先導者。前川国男と共に「会館知事」内山岩太郎の斬新で活発な建設事業を担う。
・横浜開港100年事業の一環。神奈川県、横浜市
(1951年に政令指定都市)、絹業団体などの横浜財界が参加。シルク博物館、横浜生糸取引所などの施設が置かれる。5階以上は当初はシルクホテル(1982年閉鎖、現在はSOHOの事務所)
・敷地は英一番館跡。横浜最大の外国商社ジャーディン・マセソン商会
(一時は横浜の輸出の2割を占有)があったところ。横浜市が無償譲渡。
3.横浜生糸検査所の歴史
 
・1896年本町1丁目(現在の横浜地方検察庁の場所)の木造庁舎で業務開始(庁舎の監督は遠藤於菟)。1902年、1908年に煉瓦造で増築(設計は遠藤於菟)。1918年、鉄筋コンクリート造で大規模な増改築(設計は遠藤於菟。後に横浜地方検察庁となり、1982年解体)
・1926年、現在の横浜第2合同庁舎の地に新庁舎完成。設計、遠藤於菟。施工、大林組。震災復興期の最大の建築、フラットスラブ
(梁を用いない構造)を使用。遠藤は震災前の1918年の生糸検査所でも一部でフラットスラブを使用。後の三井物産増築部でもこれを使用。1932年増築。1990年解体、外観は再現。2008年、当初から生糸検査所から借りて運用していた帝蚕倉庫の倉庫1棟と倉庫事務所(横浜市有形文化財)を残して解体されたが、残されたものからも震災復興期の雄大なモニュメントの一端が偲ばれる。
・生糸検査所の創建当初から常に遠藤於菟(1866-1943)が関与。生糸検査所の建築の歴史は、鉄筋コンクリートのパイオニアと言われる、遠藤於菟とともにある。
・遠藤の設計の現存作品、三井物産横浜支店、同倉庫、旧帝蚕倉庫C号倉庫と帝蚕倉庫事務所で、横浜にしか残っていない。
4.三井物産横浜支店
 
・1911年竣工。1927年増築。倉庫(旧日東倉庫)の竣工は1910年。施工は直営。
・日本最初の全鉄筋コンクリート造とされる。この時期に全鉄筋コンクリートを作ったというのは、世界的にも遅れていたわけではない。1927年の増築部分には梁がないフラットスラブを使用。理由はよくわからないが、梁がないと荷物がたくさん入れられるのではないか。
・明治期は野沢屋
(茂木惣兵衛)、亀屋(原善三郎)も今日の財閥とともに生糸輸出で活躍した。倉庫保管の生糸が関東大震災で燃えなかったことは国家財政を左右したとも言われる。
5.生糸と関わる横浜の民家
 
・旧清水製糸場本館(天王森泉館)は、1911年頃の建設。1931年に現在地に移築。工場本体ではなく、事務所だったと思われる。
・旧大岡家長屋門
(長屋門公園内)は1887年の建設。2階を養蚕室として使用。
・新川家住宅は1911年頃の建設。両妻かぶと造で、小屋裏を採光。そこで養蚕を行う。養蚕業最盛期の農家の特徴を残す。
・この3棟が横浜では生糸に関わる民家。県内では、愛川町半原に大正末期から昭和初期にかけて建てられた撚糸工場がいくつか現存。
6.スライドによる説明
 
・シルクセンター:屋上庭園やモダニズムと言われる建築物の特徴を紹介。
・山下町91番館:明治時代に作られた外壁
(煉瓦造)の一部が残っている。
・三井物産横浜支店:明治としてはモダンで陰影があり、歴史的にも素晴らしい建物。増築部分のフラットスラブや、煉瓦、木造、コンクリートの混構造の紹介。
・生糸検査所:地方検察庁で使われていた。取り壊される前は倉庫が3棟あった。
・旧清水製糸場本館:単なる農家ではなくて事務所を想像させる2階スペース、養蚕が行われていたスペースは展示がしてある。
・新川家:かぶと造。2階で養蚕が行われていた。
<質疑応答>
Q.遠藤於菟は、いつ頃から鉄筋コンクリート造を考えていたのか。
A.明治40年の三井物産の倉庫が最初なので、大体明治37年頃と考えられる。
Q.遠藤於菟は鉄筋コンクリートのあとに煉瓦も作っているが。
A.煉瓦も好きだったようだ。皆が鉄筋コンクリートを作ったから、煉瓦も作りたくなったのでは。
Q.三井物産は文化財の認定されないのか。
A.価値はある。一般的に規制が多くなるなどで好まない所有者もいるようだ。
 
■講師プロフィール
吉田 鋼市(よしだ こういち)
1947年兵庫県生まれ 横浜国立大学大学院教授。専攻は建築史・建築理論。
著書は「図説アール・デコ建築」
(河出書房新社)、「西洋建築史」(森北出版)など。
1981年から横浜・神奈川の近代建築の実測調査に携わる。横浜歴史資産調査会副会長。
 
■参加者アンケート結果
設問1 今回の企画内容について(n=24)
1 おもしろかった 17人(70.8%
)
2 ふつう 6人(25.0%
)
3 つまらなかった 0人(0.0%
)
設問2 講師の話について(n=24
)
1 わかりやすかった 16人(66.7%
)
2 むずかしかった 1人(4.2%
)
3 もっと詳しく知りたかった 7人(29.2%
)
4 その他(      
) 0人(0.0%)
設問3 今回のセミナー(講演・見学
)についてのご意見・ご感想をお聞かせください。14件
・講演内容について…毎回面白い、シルクセンター見学とペアは良い、など
・次回への期待…毎回珍しく入れない場所が見学でき楽しみにしている、など。
・見学について…見学建築物のマップがあるとよい、など
・会場・設営について…講演場所が良い、見学の折マイクの効果がなくて残念、など
設問4 今後、参加したいセミナーのテーマや見学したい場所などをご自由にお書きください 9件
・具体的な建築物…浜郵便局、根岸競馬場のスタンド、横浜山手の教会、外国人墓地、関東大震災復興橋梁、など
・興味のあるテーマ…三塔についてのセミナー、絹の道について八王子と交流を図る、など
設問5 このセミナーは、何を見てご応募いただきましたか(n=24
)
1 ヨコハマヘリテイジからの案内 15人(62.5%
)
2 ホームページを見て 2人(8.3%
)
3 チラシを見て 3人(12.5%
)
4 その他(     
) 3人(12.5%)